上毛新聞に掲載された不定愁訴に関する記事(オピニオン21)視点#2
2025/06/09

二年前、転倒したら噛み合わせが悪くなったAさんという方が当歯科医院に来院した。だが見たところ頭部にケガはない。聞いてみると転倒は一週間も前であり、来院日の朝に噛めなくなっていたそうだ。困ったAさんは症状から当歯科医院を調べて来院した。私はよく説明をして全身施術院に移動して体の歪みを整えた。
例えば車をぶつけてフレームが歪んだ状態で走行していたら窓が閉まらなくなったとする。この場合、窓とフレームのどちらを修理するべきなのか。答えは言わずもがなだが実はここに重要な点がある。それはフレームと窓は別パーツなのだということだ。これを先述のAさんにあてはめてみたらどうだろう。歯を削って噛み合わせを整えるのは危険ではないだろうか。もし後に何かのきっかけで体の歪みが整ったら噛み合わせはどうなるのだろう。削った歯は元には戻らないので新たな不調だって発生しかねない。Aさんは歯を削らずに噛み合わせが戻った。
こういう例もある。半年前、激しい頭痛と肩こりで眠れないBさんという方が当施術院に来院した。Bさんは仕事で疲れると歯茎が腫れるそうで、見ると奥歯がグラグラで噛むことも辛いようだった。私はよく説明をして歯科医院に移動して歯を抜いた。
入れ歯を入れたら肩こりが無くなったという話はよく聞くが、肩こりで歯科医院へ行こうと思いつく人はあまりいない。そして全身施術院で歯の問題が見つかることは稀である。Bさんは帰宅後ぐっすり眠れて翌日には頭痛と肩こりが無くなっていた。
つまり「噛み合わせは歯科医院」「肩こりは全身施術院」という発想は絶対ではないのだ。それゆえ近年は歯科医院でも歯を削るだけの噛み合わせ治療はあまりしなくなってきたし、全身施術院でも歯科医院のチェックを勧めるようになってきた。嬉しいことに意識は高まってきているようだ。
それならば我々が気を付けることは症状緩和を追い過ぎて原因を見失わないようにすることだ。というのも我々は症状そのものに夢中になりがちなので、その一生懸命さで視野を狭くしてしまうことがある。結果として治癒困難となってしまうことがあるのだ。そもそも身体の歪みを整えることで治る噛み合わせがあるわけだし、噛み合わせを変えない限り治らない肩こりがあるわけだ。思うに症状は原因を取り除かないことで治らなかったり別の病気になったりもするのだろう。すなわち他医業種が複合的に提携を行えば治療難民が減るかもしれないと考えるのは道理ではないだろうか。我々はもっと視野を広げるべきである。
結論として。複合的医療はなにも同じ建物内でなくてもいい。他医業種が提携することで今よりも更に情報を共有すればいいだけなのだと私は考える。