上毛新聞に掲載された不定愁訴・顎関節症に関する記事(オピニオン21)視点#6
2025/07/16

昔ビリヤード場に入り浸りの時期があったのだが、そこに抜群にうまいAさんという方がいた。見た目もプレースタイルも格好良いのに、試合中に限ってくわえ楊枝なのが不思議だった。あるとき何故なのかと尋ねてみたところ集中力を高める為とのことだった。この真意に私はとても衝撃を受けた。
スポーツマウスガードというものを御存じだろうか。ラグビーやホッケーでは必需品であり、今では様々なスポーツで採用されている。このマウスガードの目的は歯や粘膜を守ることが主だが、集中力を引き出すということも目的のひとつである。激しいプレーで口を切った歯列矯正治療中のサッカー少年B君は、当院でこれを作ったところ安心してプレーが出来るようになった。それだけでなくプレー自体が冴えてきて今ではレギュラー選手である。これは噛むことで脳神経が刺激されて血流量が増え、脳が活性化したからかもしれない。粗雑過ぎて真似してはいけないが、前述のAさんの方法は理にかなっているともいえる。
話は変わるが、以前この場所で歯ぎしりや食いしばりが、咬合痛や冷水痛を引き起こすことがあると述べた。すなわち集中力を引き出すために噛むことは有効であるが、あくまでも適度でなくてはならないのである。過ぎたるは猶及ばざるが如し、といったところだろうか。
日常生活での歯の負担軽減にはマウスピースが有効である。これには歯ぎしり用や食いしばり用だけでなく顎関節症用やいびき防止用など種類が豊富であり、様々な用途で選べる歯科医院も増えてきた。
更によく噛むことは記憶力向上と認知症防止に効果的というだけでなく、虫歯予防、ガン予防、消化助長、などの効果もある。これは噛む行為が唾液の分泌を促すからである。唾液分泌には顔面神経が関わっているので、唾液分泌が促進するくらい噛むことで筋肉だけでなく神経的にも健康になる。逆に不安になったり緊張したりすると喉が渇くのは、神経的に唾液分泌量が少なくなるからである。ひと昔前は運動中に水を飲むと良くないと言われていたが、それは過ちでありむしろ逆効果だったということが立証されている。口を潤すだけで落ち着くこともあるのだから喉の渇きはあまり良いことではない。B君はマウスガードを使うことで試合中の緊張が少なくなったそうだ。
つまり唾液分泌と噛むことは神経を介して密接につながっているのだから、日常生活を充実させるためには噛む行為の利点を有効活用するべきである。かくいう私も最近よく噛むように心がけている。これで日常生活が充実できればと期待していたのだが、どうやら噛み過ぎというよりも食べ過ぎのようで体脂肪が充実しつつある。これこそが過ぎたるは…(略)